旅の終着点、ブルゴーニュへ
フランスをほぼ一周するこの列車旅も、いよいよ最後の目的地ブルゴーニュを迎えた。
イタリア、ドイツ、フランスと1か月かけて回ってきた長い旅。終わりが近づいていると思うと、少し寂しさを覚える。
マルセイユからTGVで約3時間半。
ブルゴーニュ地方の中心的な街、ボーヌ駅に到着した。

南仏の強い日差しと雑多なエネルギーから一転し、目の前に広がるのは、いかにも「フランスらしい」と感じる穏やかな風景だ。
不思議と安堵感すらある。
静かな街ボーヌと宿での出会い
ボーヌはとても小さな街だ。
賑やかなマルセイユとの落差は大きく、こぢんまりとした駅舎を出ると、すぐに静かな街並みが始まる。
宿泊先のゲストハウスを探しながら、住宅街を歩く。暑さのせいか、外を歩く人はほとんどいない。
目的地の周辺までは来たものの、なかなか見つからず、スーツケースを引いて行ったり来たりしていると、一軒の家から男性が出てきて、こちらに向かって手を振っている。
どうやらゲストハウスのオーナーらしい。
日本人がスーツケースを引いて家の前を行き過ぎるのを見て、察して声をかけてくれたのだった。
恰幅の良いムッシュは上半身裸で、日に焼けた体にはタトゥーがいくつも入っている。見た目はいかついが、驚くほどフレンドリーだ。英語は話せないので、会話はお互いにGoogle翻訳頼み。それでも意思疎通に困ることはまったくなかった。
案内されたのは、離れを改装した客室。DIYが得意なのだろう、手作り感のある温かい空間だ。ガレージからは今も電動工具の音が聞こえてくる。どうやらまた何かを作っているらしい。
庭では人懐こい子犬が放し飼いにされており、滞在中は何度も一緒に遊んだ。この宿を選んで正解だった、と早くも思う。
城壁に囲まれた旧市街を歩く
一息ついたところで、街の散策に出かける。
ムッシュからもらった地図を片手に、旧市街へ向かう。おすすめのレストランも教えてもらった。
20分ほど歩くと、中世の城壁に囲まれた旧市街へ入った。

石畳の道沿いにはレストランやカフェ、ワインショップが並び、「ワインの街」に来たことを実感する。
ただ、これまで訪れてきた街と比べると、観光客は少なく、全体に静かだ。
オスピス・ド・ボーヌと、少しの後悔
街を歩いていると、やがてオスピス・ド・ボーヌに辿り着く。オスピス・ド・ボーヌは、15世紀に設立された慈善病院で、かつては貧しい人々を無償で受け入れていた施設だ。

現在は博物館として公開されており、色鮮やかな屋根瓦の美しい建物で知られている。
また、ここで造られるワインは、今もブルゴーニュ最大級のチャリティーオークションに出品され、その収益が医療や福祉に充てられている。
正直なところ、その時は「昔の病院」程度の認識しかなく、「並んでまで入るほどでもないか」と思い、外観だけ眺めて通り過ぎてしまった。後から詳しく知り、少し後悔することになる。
ワイン街道巡りに気を取られ、ボーヌという街自体の下調べをあまりしていなかったのだ。
夕暮れ前の休憩と、食事への期待
暑さに耐えきれず、ジェラートを買って木陰でひと休み。
その後もゆっくりと街を歩き、本屋に立ち寄ってブルゴーニュ料理のレシピ本を一冊購入した。
そろそろお腹が空いてきたので、ゲストハウスで教えてもらったレストランへ向かう。
グジェールと、ワインのある時間

訪れたのは、ボーヌの中心部にある「Le Béléna(ル・ベレナ)」という人気のブラッスリーだ。
テラス席に座り、まずはワインを注文する。
ワインと一緒に運ばれてきたのは、アミューズのグジェールだった。
グジェールは、ブルゴーニュ地方の郷土菓子で、チーズを練り込んだシュー生地を焼いたものだ。外は軽く、中は空洞。温かいうちに頬張ると、チーズの香りがふわっと広がる。ワインとの相性は言うまでもない。
ピノ・ノワールの華やかな果実味を感じながら、明日のワイン街道巡りへの期待が自然と高まっていく。

初めてのエスカルゴ
続いて運ばれてきたのはエスカルゴ。「ちゃんとしたもの」を食べるのは、実はこれが初めてだ。
専用のトングで殻をつかみ、身を取り出すのだが、これがなかなか難しい。手こずっていると、ウェイターが笑いながら「エスカルゴは初めてかい?」と声をかけ、コツを教えてくれた。
ようやく口に運ぶ。

食感は、やはりサザエやツブ貝を煮たものに近い。しかし、パセリとニンニクがたっぷり効いたブルギニョンバターが、エスカルゴを「エスカルゴたらしめている」
ブッフ・ブルギニョンという答え
メインは、やはりブッフ・ブルギニョンを選んだ。ずっと食べてみたかった、ブルゴーニュを代表する料理だ。
ブッフ・ブルギニョンは、牛肉を赤ワインでじっくり煮込んだ郷土料理で、もともとは家庭料理として親しまれてきたものだ。ブルゴーニュ産の赤ワインを惜しみなく使い、香味野菜とともに時間をかけて火を入れる。
ホロホロに煮込まれた肉を一口食べる。

正直に言うと、食べる前までは「ビーフシチューと大差ない料理だろう」と思っていた。しかし、実際はまったく違った。贅沢に使われたブルゴーニュワインが、味の輪郭を驚くほどクリアにしている。
濃厚なのに重たくならず、ワインが前に出過ぎることもない。すべての要素が絶妙なバランスで成り立っている。
もちろん、ワインとの相性は言うまでもない。
まさに、この土地で食べるべき料理だと感じた。
現地で食べる意味
エスカルゴもブッフ・ブルギニョンも、パリのビストロでは定番のメニューだ。それでも、ここまで我慢してきた甲斐はあった。
やはり、現地で食べてみなければ分からない。
満足感に包まれたままゲストハウスへ戻り、この日は早めに休むことにした。
明日は朝から、いよいよブルゴーニュワイン街道を巡る。
-scaled.jpg)
コメント