1人旅では注文できなかった 〜私が辿り着いた漁港の町〜
転職を機に、有給消化を利用して1ヶ月のヨーロッパ旅行に出た。
訪れたのは、イタリア、ドイツ、そしてフランスの3ヶ国。
フランスではユーレイルパスを使い、
ストラスブール → パリ → レンヌ → ボルドー → マルセイユ → ブルゴーニュ
という、ほぼフランス一周の列車旅をした。
ここブルターニュを訪れたのには
明確な目的があった。
オマール・ブルトンを現地で食べること。

レンヌで直面した「1人旅の壁」

オマール・ブルトンを食べるため、拠点に選んだのはレンヌ。
ブルターニュ地方の中心都市で、アクセスも良い。
到着してすぐ、街中のレストランを回った。
しかし、どこも同じ返事だった。
「オマールは2名分からです」
1人旅の私は、どこでも注文できない。
それなら、と考えた。
自分で茹でて食べられないだろうか。
宿は共用キッチン付き。
スーパーや鮮魚店を探し回ったが、オマールは見つからない。
そのとき、ふと思った。
もう、漁港まで行くしかないのでは?

「適当な港町」を探して見つけたカンカル
「地球の歩き方」を眺めながら、レンヌから行けそうな港町を調べる。
そこで目に留まったのが**カンカル(Cancale)**だった。
レンヌ滞在2日目の朝、
TERでサンマロへ行き、そこからバスでカンカルへ向かった。
到着して驚いた「海がない風景」

カンカルに着いて、まず驚いた。
海が、ない。
この辺りは潮位差が非常に大きく、
満潮と干潮の差は10メートル以上になるという。
船はすべて陸に打ち上げられ、
名産の牡蠣棚も、完全に陸に上がっている。
「本当に海辺の町なのか?」
そう思うほどの光景だった。

牡蠣小屋で食べる、これ以上ない贅沢

海沿いを歩くと、牡蠣小屋がずらりと並んでいる。
ここでまず、牡蠣を食べることにした。
注文したのは3種類の牡蠣の盛り合わせ。
職人気質だが気さくなムッシュが、
見事な手捌きで次々と殻を開けていく。
小ぶりでホタテのような形の牡蠣は、
専用の器具を使って開ける。
その手捌きに見入っていると、
ムッシュがニヤリと笑って言った。
「大きい牡蠣は好きか?」
そう言って、立派な牡蠣を選んでくれた。
牡蠣は、砂浜で食べる

レモンだけが添えられたプレートを受け取り、外の簡素なテーブルへ。
周囲を見ると、みんな豪快に牡蠣を食べている。
殻はそのまま砂浜へ。
牡蠣殻の山には、カモメたちが集まってくる。
レモン専用のゴミ箱があり、
プレートだけを返却する仕組みだ。
合理的で、実にフランスらしい。

ついに出会った、オマール・ブルトン

昼時まで街を散策し、
いよいよ目的のオマール・ブルトンを出すレストランへ。
店に入ると、マダムが活きの良いオマールを見せてくれた。
カナダ産ロブスターに比べて、
ややスリムな体つき。
そして何より、サファイアのように深く美しいブルー。
思わず見惚れてしまう。
カルバドスでフランベされた一皿
注文したのは、
カルバドスでフランベしたオマール・ブルトン。
オマール専用のエプロンを着けてもらい、料理を待つ。
そして、運ばれてきた。

これは、別物だと思った
身の締まり方、味の濃厚さが桁違いだった。
分かりやすく言えば、
伊勢海老とロブスターの違い。
コライユ(ミソ)も絶品で、
添えられたソースは要らないと感じるほど。
「ここまで来た甲斐があった」
心からそう思った。
干潟が、一瞬で海になる

店を出ると、
先ほどまで干上がっていた海岸が、
一面エメラルドブルーの海に変わっていた。
この辺りの海は
**「ウルトラマリンブルー」**と呼ばれるほど美しいという。
遠くには、対岸のモン・サン・ミシェルがぼんやりと見える。
言葉を失うほどの絶景だった。
オマールのためだけに行く価値がある町
ひと通り海辺を散策し、
バスでサンマロへ戻った。

カンカルは、観光地を巡る町ではない。
一皿のために行く町だ。
そして、その一皿は、確実に記憶に残る。
日本に帰ったら、このオマール・ブルトンを
どこまで再現できるのかを試してみたい。

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