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シチリア(6) 〜ヴッチリア市場で食べる、シチリアのど真ん中

朝から決めていた一軒


実は、今朝ヴッチリア市場を歩いた時点で、ランチに入る店はすでに決めてあった。

レストランが並ぶ路地の途中にある、オステリア・カサレッチェ。

開店前から外に出されていたメニュー看板。そこに載っていた「ウニのパスタ」に、一目で心を奪われた。

理由は単純だ。この場所で、この市場の空気の中で出されるウニのパスタが、どんな味なのか知りたくなった。


前菜で分かる「間違いなさ」


案内のスタッフに声をかけ、テーブルに着く。


前菜には

・赤エビのマリネ

・シチリアの郷土料理、ベッカフィーコ

そしてメインに、迷わずウニのパスタを注文した。

赤エビは、ガイドブックで覚えたイタリア語「ガンベロ・ロッソ」で頼んでみると、ウェイターが少し驚いたような、嬉しそうな表情を見せた。

ウニのパスタを注文したときも、一瞬「おっ」という顔をしたのが印象に残っている。

どうやら、店にとっても自慢の一皿らしい。


シチリア味の正体


まず運ばれてきたのは、赤エビのマリネ。

味付けは、塩、レモン、オリーブオイルのみ。

余計なことは一切していない。

程よく締まった赤エビは、ねっとりとした食感で、噛むほどに旨みが広がる。

素材の良さが、そのまま伝わってくる一皿だ。


続いて、ベッカフィーコ。

松の実、レーズン、パン粉などのフィリングをイワシで巻いて揚げた料理で、餌をついばむベッカフィーコという鳥に形が似ていることからこの名が付いたという。

ひと口食べて、すぐに思い出した。

昨日食べた、イワシのパスタと同じ方向性の味だ。

甘み、酸味、香ばしさ。これが「シチリア味」なのだと、ようやく腑に落ちた。


このウニだから成立する一皿

そして、メインのウニのパスタ。

ひと口食べた瞬間、日本のウニとの違いに驚かされる。

日本のウニが持つ、甘みとほのかな苦味の繊細さとはまったく別物だ。

こちらは、魚卵特有の旨みが、ストレートにガツンとくる。

味付けは驚くほどシンプルで、おそらくニンニクオイル、ウニ、パスタの茹で汁を乳化させただけのソースだろう。クリームもトマトも、一切使われていない。


なるほど。

このウニだからこそ、このレシピが成立する。

これもまた、「ここでしか成立しない味」だった。

正直なところ、これは日本で再現してみようとも思わなかった(笑)再現できるはずがない。

イワシのパスタと並ぶ、シチリアの郷土パスタ「メランザーネ」(ナスとトマトのパスタ)は、いかにも南イタリアらしい、予想通りの味だった。

パルミジャーノやペコリーノのすりおろしではなく、リコッタのシュレッドチーズなのがこの土地ならではだ。

ひとつだけ付け加えるなら、料理は本当に美味しいが、提供まではかなり気長に待つ必要がある。

急いでいる人には向かないが、時間に余裕のある旅なら、この市場の空気ごと味わえる。

会計をお願いしてからもしばらく待たされ、ウェイターと目が合った瞬間、「あっ」という顔と人懐こい苦笑い。

その表情を見たら、もう全部許してしまえる。


2日目のディナー

2日目の夕食も、新市街へ向かう。

マッシモ劇場の近く、昨日訪れたトラットリア・ジア・アンナの一本隣の通りにあるリストランテ・ダ・バッコを選んだ。

これまでと同じく小路地沿いのテーブル席だが、こか少しだけ、空気が上品だ。


丁寧で、洗練された料理

前菜盛り合わせと、カジキのグリル。

本当はクスクスも食べたかったが、この日はメニューに無かったため、リゾット・ペスカトーラを注文した。


前菜盛り合わせは、

・黒オリーブ、カポナータ、

・オニオングラッセのトースト、チーズ、

・メランザーネ(ナスのチーズ焼き)。


オニオントーストにはオレガノが振られ、一気に地中海らしい香りが広がる。

チーズは、おそらくリコッタ・サラータ。個人的には、すりおろして料理に使う方が好みだ。

印象的だったのは、カポナータ。トマトを使わず、ビネガーとセロリが効いた味付けで、これまで出会ったことのない美味しさだった。


きれいすぎるシチリア

リゾット・ペスカトーラは、サフランとトマトで硬めに炊き上げられ、ムール貝、アサリ、イカが入っている。

きちんと美味しい。

だが、特筆すべき点はない。


カジキのグリルは、チェリートマトのソースと合わせられており、付け合わせのオレンジがいかにもシチリアらしい。

脂の乗ったカジキを、トマトの酸味がうまく洗い流し、良いところだけが残る。「地中海風」と聞いて想像する、まさにど真ん中のあの味だ。


どれも、間違いなく美味しい。


……ただ、

何かが足りない。

自分が求めていたもの

そう、上品すぎるのだ。


きれいで、整っていて、洗練されている。

だが、自分がこの旅で求めていたのは、もう少し素朴で、「よそ行きではない」シチリアの日常の味だった。

それを、今日一日で食べ歩いてきたからこそ、はっきりと自覚したのだと思う。

食を通して、自分がこの土地に何を求めているのか。デザートのシチリア伝統菓子カッサーノをつつきながら考えていた。

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