ボーヌ旧市街、最後の夜へ
ブルゴーニュのワイン街道巡りを終えた、最終日の夕方。
素晴らしい体験の余韻に浸りながら、再びボーヌの旧市街へと繰り出す。
明日の朝は早い。午前中の便でパリへ戻り、シャルル・ド・ゴール空港内のシェラトンホテルに一泊した後、いよいよ帰国だ。
だからこそ、今日のうちにブルゴーニュ料理を心ゆくまで味わっておきたい。

中世の地下蔵で味わう、最初の一軒
最初に向かったのは、ボーヌの名店
「Le Caveau des Arches(ル・カヴォ・デ・ザルシュ)」

15世紀に造られた石造りの地下蔵(カヴォ)を利用したレストランで、美しいアーチ型の天井が続く空間は、まるで中世の隠れ家のようだ。

ブルゴーニュ生まれのカクテル「キール」
食前酒には、ブルゴーニュ名物のカクテル「キール」を注文する。もちろん、グジェールも添えられている。

ワイン街道ツアーのガイドさんから、キールの成り立ちを聞いたばかりだったので、どうしても飲みたくなった。
かつて、ブルゴーニュの白ワイン品種アリゴテは、その強い酸味ゆえに人気がなかったという。そこでディジョン市長だったキール氏が、同じくブルゴーニュ名産のクレーム・ド・カシスを合わせ、このカクテルを考案した。市のレセプションなどで振る舞われ、次第に広まっていったのだそうだ。
ウフ・アン・ムーレットという発見
前菜は、ウフ・アン・ムーレット。
ポーチドエッグを赤ワインソースで煮込んだ料理だ。昨日、ボーヌの本屋で買ったレシピ本で知り、気になっていた一皿でもある。

正直、組み合わせが意外すぎて、味の想像がつかなかった。
恐るおそる口に運ぶ。
——まったく違和感がない。
昨日食べたブッフ・ブルギニョンと同じく、ワインの渋みではなく、コクと旨味だけをうまく引き出したソースだ。卵のまろやかさと見事に調和している。
エポワスと鶏肉、官能的な一皿
メインは、しっとり焼かれた鶏肉にエポワスチーズのソースを添えた一皿。

これも、ガイドさんに「ぜひ食べてみてほしい」と勧められた料理だ。
エポワスチーズは、ブルゴーニュを代表するウォッシュタイプのチーズ。
ブレス鶏で知られる隣接地域もあり、この地方では鶏料理も非常にレベルが高いという。
ひと口食べて、思わず唸る。
官能的——その言葉がぴったりだ。
クセのあるエポワスの濃厚なソースが、淡白な鶏肉を驚くほど引き立てている。
満足して店を後にした。
まだ終われない、二軒目へ
……が、まだ終われない。
ブルゴーニュ料理を「食べ尽くした」と言うには、少し物足りない。昼食を取っていなかったこともあり、もう一軒はしごすることにした。
地元客で賑わうブラッスリー
次に入ったのは、スタイリッシュな外観が目に留まった
ブラッスリー・ア・ランデヴー。
開放感のある店内は、地元客で賑わっている。

シャンボン・ペルシエという郷土料理
ここでも、現地のレシピ本で知った前菜を注文した。
シャンボン・ペルシエだ。
シャンボン・ペルシエは、豚肉とパセリを使った冷製料理で、肉の煮汁をゼラチンで固めた、いわばフランス版の煮凝りだ。

ブルゴーニュやブルゴーニュ近郊で親しまれてきた、伝統的な家庭料理でもある。
ゴロゴロと入った豚肉は食べ応えがあり、かなりの満足感。これだけ大量に使われたパセリも、不思議と主張しすぎない。
フランス地方料理の奥深さを、改めて感じさせてくれる一皿だった。
マグレ・ド・カナール、再挑戦
メインは、マグレ・ド・カナール。
ボルドーで食べた時は、正直かなり火が入りすぎていたので、ここでもう一度挑戦する。
料理が運ばれてきた。

今回は、しっかりとレア。心の中で小さくガッツポーズをする。
ブルゴーニュらしく、カシスのソースが添えられている。付け合わせは、ぶつ切りのトウモロコシが三切れだけ。この潔さが、なんとも心地よい。
食後には、カシスを使ったデザートも注文した。
旅の終わりを噛みしめながら
二軒目を出る頃には、あたりはすっかり暗くなっていた。

さすがに満腹だ。
人通りの少ない道を歩きながら、ゲストハウスへ戻る。
ふと、今回の旅の情景が次々と蘇ってきた。
イタリア、ドイツ、そしてフランスをほぼ一周する列車旅。
最初はどうなることかと思ったが、気がつけば明日で終わりだ。
長かったようで、驚くほどあっという間だった。

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