港へ向かって歩く

食後は、地下鉄ドゥオーモ駅から一駅先のムニチーピオ駅で下車し、海辺を目指して歩くことにした。
明日のカプリ島行きの船が発着するモロ・ヴェベレッロ港は、駅を出て王宮(パラッツォ・レアーレ)沿いを進めば、すぐそこだ。
昼間の喧騒が少しずつ落ち着き始め、街の空気がゆるやかに変わっていくのを感じる。
道路を渡ってすぐの場所にもフェリー乗り場があるが、カプリ島行きの高速艇などが発着する乗り場は、そこから右手方向へ進んだ先にある。
初めてだと少し分かりにくいので、間違えないよう注意したい。
この港からは、カプリ島のほか、アマルフィ海岸観光の拠点となるソレント行きの船も出ている。

海岸沿いの景色
さらに進んで海岸線に出た瞬間、視界が一気に開けた。

真っ青な空と海。
そしてその向こうには、ポンペイ遺跡で知られるヴェスビーオ火山がくっきりと姿を現している。
これまで歩いてきた雑多な街並みとの落差も相まって、あまりに美しく、少し現実味がないほどだった。
「ここも、同じナポリなのか」
そんな言葉が、思わず頭に浮かぶ。
サンタ・ルチア地区


海沿いをしばらく歩くと、街の表情ががらりと変わる。
高級ホテルが立ち並ぶサンタ・ルチア地区に入った。
さきほどまでの旧市街とは対照的で、どことなく洗練された、上品な雰囲気が漂っている。
観光客も多いが、騒がしさはなく、海風が心地よい。のんびりとナポリに滞在するなら、このあたりに宿を取るのも悪くなさそうだ。
卵城へ向かう

海に突き出すように建つ卵城(カステル・デル・オーヴォ)
ここからの夕景が美しいと聞き、さっそく足を運んでみた。
……が、残念ながら工事中だった。
まあ、こういうこともある。
この後の予定も特になかったので、卵城へ続く橋の上から海を眺め、何もせずに一時間ほど、ただぼんやりと過ごした。
何もしない時間こそが、旅のいちばんの贅沢なのかもしれない。
卵城(カステル・デル・オーヴォ)とは
卵城は、ナポリ湾に浮かぶ小島メガリデ島に築かれた、ナポリ最古の城塞だ。
名前の由来には諸説あるが、古代ローマの詩人ウェルギリウスが「城の基礎に魔法の卵を隠した」という伝説が有名だという。
その卵が割れない限り、ナポリは繁栄し続ける――
そんな言い伝えが、いかにもナポリらしい。

「ナポリを見て死ね」
ナポリについては、実のところ、あまり下調べをしていなかった。
有名な格言「ナポリを見て死ね」で語られる眺望が楽しめるサン・マルティーノの丘や、ポジリッポの丘の存在も、この時は知らなかった。
今思えば、ずいぶん勿体ないことをしたものだ。
だから、まだ死ねない(笑)。
またナポリを訪れる理由ができた、ということにしておこう。
次回はポンペイやアマルフィにも訪れてみたい。

ナポリという街
実際に来るまでは、ナポリに対してかなり治安の悪いイメージを抱いていた。
正直なところ、最初は紛争地帯に向かうくらいの心構えだった。
だが、ガイドブックやネットで言われているほどではなかった、というのが率直な感想だ。
もちろん、治安が良いとは言えない。カバンを後ろに背負うのは論外だし、荷物から目を離すのも論外。
それでも、基本的な注意を怠らなければ、過剰に恐れる必要はないと感じた。
それ以上に、この街の喧騒と活気が、いつの間にか心を掴んでいた。
ナポリは、雑然としていて、うるさくて、エネルギーに満ちている。美しさと荒々しさが、同時に存在している街だ。
そして気づけば、
「また来たい街」になっていた。

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