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シチリア(4)〜トラットリアで味わう『シチリア味』

── イワシのパスタに辿り着くまで

初日の余白は、まだ残っているパレルモの街は、想像していた以上に情報量が多い。

初日は朝から歩き続けていたが、それでもまだ消化しきれていない感覚が残っていた。


夕方になり、そろそろ食事のことを考え始める。

ディナーには少し早い時間だが、ちょうどいい。行き当たりばったりではなく、きちんと探して、納得して店に入りたかったからだ。

夏のヨーロッパは日が長い。20時を回っているのに、空はまだ明るく、日本の夕方のような光が街を包んでいる。

ホテルのある中央駅周辺は、意外とレストランが少ない。Googleマップを眺めていると、マッシモ劇場のある新市街周辺に飲食店が集中しているようだった。

中央駅前の交通量の多い道路を渡り、マクエダ通りへ入る。この通りにも土産物屋や雑貨店が並んでいるが、ヴィットリオ・エマヌエーレ通りよりも、個人経営の小さな店が多い印象だ。

灯りが入り始めた夕暮れのマクエダ通りは、人の気配に満ちている。

地元の人と観光客が入り混じり、賑やかではあるが、不思議と騒がしさは感じない。夕方特有の、少し緩んだ空気が流れていた。

途中、街の中心「クアットロ・カンティ」に出た。ここは、マクエダ通りとヴィットリオ・エマヌエーレ通りが交差する四ツ辻だ。灯りがともったバロック様式の建物は、まるで巨大な舞台装置のようだった。


「観光客向け」では満足できない

新市街に近づくにつれて、レストランの数は一気に増える。通りの両側に並ぶ店の看板を眺めながら歩くが、違和感があった。

パスタ、ピッツァ、ハンバーガー。

どこかで見たようなメニューが並ぶ。

「これじゃない。」

シチリアに来た理由は、はっきりしている。ここでしか食べられないものを、ここで食べたい。

そして、どうしても食べてみたかった料理がある。

パスタ・コン・レ・サルデ(Pasta con le sarde)イワシのパスタだ。

フェンネルやサフランで香りづけしたイワシのラグーを使う、シチリアの郷土料理。概要を聞いただけでは、正直まったく味の想像がつかない。

郷土料理なのだから、どの店にもあるだろう。そう思っていたが、観光客向けのレストランには、意外なほど見当たらない。

スタッフに尋ねながら、何軒も店の前を通り過ぎる。気がつけば、マッシモ劇場の近くまで来ていた。


路地の奥で見つけた答え

マッシモ劇場は、想像以上のスケールだった。ヨーロッパ屈指と言われるだけの存在感がある。

その近く、大通りから一本入った路地に、気になる店があった。

Trattoria Zia Anna(トラットリア・ジア・アンナ)

「アンナ叔母さん」という名の通り、肩肘張らない雰囲気のトラットリアだ。看板のメニューには、見覚えのないシチリア料理が並んでいる。

ここだ、と思った。


前菜が語る、この土地の料理観

前菜にタコのサラダ。メインには、もちろんイワシのパスタを注文する。

料理を待つ間、ビールを飲みながら店内を眺める。地元客が多く、観光地特有の浮ついた感じはない。

アコーディオン奏者がテーブルを回っている。

「とりあえずゴッドファーザーを弾いておけばいいと思ってるな」

そんなことを考えて、少しだけ笑いそうになる。しかし、彼らはお金を要求してくるので、相手にしない方が無難だ。


前菜のタコのサラダが運ばれてきた。

ぶつ切りのタコに、トマト、オリーブ、セロリ。味付けは、塩、レモン、オリーブオイルだけだろう。

驚くほどシンプルだが、味は驚くほど深い。小ぶりのタコは柔らかく、素材の輪郭がはっきりしている。

余計なことをしない。

土地の素材を、そのまま活かす。

この感覚は、日本料理にも通じるものがある。これもまた、「ここでしか成立しない料理」だと感じた。


シチリア味の正体

そして、イワシのパスタ。

見た目は素朴で、飾り気はない。中が空洞のパスタ「ブカティーニ」に、イワシのラグーがしっかり絡んでいる。

一口食べると、想像していた以上に複雑な味が広がる。

野生のフェンネルは、知っているそれよりも野性味が強く、ディルに近い香りに感じられた。松の実、レーズン。甘さと香ばしさが混ざり合い、どこかお菓子のようなニュアンスもある。仕上げに散らされたモリーカの食感が、全体を引き締める。

「これが、シチリア味か。」

言葉にすると単純だが、実際には簡単に説明できない味だった。

スタッフの距離感も心地よく、長居したくなる店だった。

店を出て、夜のローマ通りを歩く。初日のディナーとして、これ以上ない一皿に出会えたと思う。

シチリアの旅は、まだ始まったばかりだ。

次はどんな料理に出会えるだろうか。明日になるのが待ち遠しい。

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