冠水の予感?雨上がりの迷宮をゆく
ヴェネツィア2日目の朝。
明け方に激しい雷雨があった影響か、運河の水位がいつもより高く感じる。「アクア・アルタ(高潮)で浸水したりしないだろうか?」と少しの不安と期待を抱きながら、街へ繰り出した。

今日の目的地は、島の最奥部に位置する「サン・マルコ広場」だ。
街の至る所にある壁には、「San Marco」と書かれた道標がある。最初はあまりに無造作で落書きかと思ったが、これが意外と頼りになる。ヴェネツィアの歩き方にもようやく慣れ、昨日よりもスムーズにリアルト橋へと辿り着いた。
あいにくの曇り空で、昨日の夕景ほどの感動はないものの、橋のたもとで何やら活気あふれる場所を見つけた。
美味しさの正体を確認!リアルトの鮮魚市場
そこは、ヴェネツィアの台所「リアルト市場」だった。
並んでいる食材を見て、料理好きとしての血が騒ぐ。日本では希少なスカンピ(手長エビ)が山盛りにされ、ブランジーノ(スズキ)や立派なオマール海老が所狭しと並ぶ。季節外れのクモガニも見つけた。



そして何より目を引いたのが、大量のイカだ。
氷の上でびっしりと並んだイカは、自身のスミにまみれて真っ黒に光っている。アドリア海ではこれほど豊かな恵みがあるのかと、昨日のイカスミパスタの「とんでもない濃厚さ」に一人で深く納得してしまった。
市場を歩くと、その土地の料理がなぜ美味しいのか、その背景が見えてくる。これが旅の醍醐味だ。
世界一美しい広場と、ゴンドリエーレの日常
市場を後にし、さらに歩を進めてサン・マルコ広場へ。
ナポレオンが「世界一美しい広場」と称えた場所だが、この日はイベントの準備中らしく、一面に並べられたパイプ椅子と柵のせいで、その全貌を拝むには少し残念なタイミングだった。


広場の奥、対岸にはサン・ジョルジョ・マッジョーレ島の鐘楼が小さく佇んでいる。少し休憩して、次は楽しみにしていたランチへと向かう。
2杯目の漆黒。老舗「アッラ・マドンナ」の粋な演出
昨日食べた味が忘れられず、ランチも再びイカスミパスタをハシゴすることにした。目指すはリアルト橋近くの名店「トラットリア・アッラ・マドンナ」だ。

開店直後の店内には、白と青のボーダーシャツを着たゴンドラの船乗り(ゴンドリエーレ)が早めのランチを摂っていた。スタッフが客席の片隅でズッキーニの花を掃除している姿もあり、この街の素顔を覗き見したようで、なんだか嬉しくなる。
注文したビールと共に、サービスで「花ズッキーニのフリット」が出てきた。さっき掃除していた、揚げたての一品だ。
メインのイカスミパスタは、四角い皿の縁にカラフルなエディブルフラワーがあしらわれ、真っ黒なパスタとのコントラストが実に美しい。味はやはり、市場の光景を裏切らないストレートなイカの旨みが凝縮されていた。

アニメ談義と、イカ尽くしの前菜盛り合わせ
しかし、今日のランチはこれだけでは終わらない。
もう一軒、どうしても気になっていた「トラットリア・アル・ポンテ・デル・メージョ」へ。


水路沿いの静かなテラス席。担当してくれた女の子が「日本の方ですか?」と目を輝かせて話しかけてきた。なんと彼女はアニメ『東京リベンジャーズ』の大ファンだという。地球の裏側で原作漫画の話で盛り上がるとは、これだから旅はやめられない。
ここで頼んだ「前菜盛り合わせ」は、まさにイカ推しのパレードだった。

• イカのトマト煮
• イカとエビのマリネ
• イカのスミ煮(ヴェネト名物・白ポレンタ添え)
• イワシのエスカベーシェ
どれも市場で見たあの鮮度の良さが活きている。初めて食べた白ポレンタの素朴な食感が、濃厚なスミ煮によく合う。
極の一皿:スカンピとブランジーノのカッペラッチ
そしてこの旅の真打ちとも言えるのが、メインの「白身魚と手長エビのカッペラッチ」だ。

ブランジーノのすり身を包んだ小さな帽子型のパスタに、プリプリのスカンピが添えられ、軽やかなトマトソースでまとめられている。
ブランジーノの滑らかさとエビの濃厚な旨味……市場でのあの姿が、皿の上で最高の芸術に変わっている。まさに「ここでしか成立しない味」の極みだった。
食後に雨が降り出したため、今日は早めにホテルへ。
天候が良ければ他の島へも足を延ばしたかったが、「またここへ来る理由ができた」とポジティブに捉え、ヴェネツィアの夜を惜しむことにした。

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